NO.34 極小の粒が引き起こす地球規模の課題!マイクロ・ナノプラスチックが人体にもたらす影響とは
基幹工学部 応用化学科
マイクロ・ナノデバイス研究室
伴 雅人 教授
■研究概要
当研究室では、「皆さんとその子供たちの世代のために」をモットーに、現在世界的な課題となっている「プラスチックごみに関する諸問題」に取り組んでいます。
具体的には、
①「検出」 大気・食品中にどれほどマイクロプラスチック・ナノプラスチックが含まれているか?
②「影響調査」 ナノプラスチックは脳神経に長期的に影響を及ぼさないか?
といった現状を知るためのテーマから、
③「回収」 活性炭でマイクロプラスチック・ナノプラスチックをろ過・回収する。
④「リサイクル」 プラスチックごみから乳児・幼児に安全な玩具をつくる。
⑤「バイオプラスチック」 生物から生分解性プラスチックをつくる。 などの30年後に向けたテーマを掲げ、研究活動をしています。
■プラスチックごみ問題とは?
これまで人類が生産したプラスチックのうち1億4000万トンがごみとして海に流れ込み、今でも年間500〜1300万トンものプラスチックごみが海に流れ出ていると推定されています。皆さんも、ペットボトルのキャップの誤飲がもとで死んでしまった海鳥のひなの死骸の写真を見たことがあるでしょう。クジラの死骸のお腹からも大量のプラスチックごみが見つかっています。2050年には海のプラスチックごみの量が魚の量よりも多くなる、という驚くべき試算もあります。
また、海に排出されたプラスチックごみは、日光や波などにさらされて細かく砕かれマイクロプラスチック(5mm以下のプラスチック)と呼ばれる非常に細かい粒になります。マイクロプラスチックは、現在までに、大洋から深海、北極までのあらゆる海域に広がっていることが確認されており、また、プランクトン、魚介類、クジラまで、様々な大きさの海洋生物の体内に取り込まれ、発育不良や繁殖力・捕食能力の低下などの原因となっています。そして、我々ヒトも、食物連鎖から、飲料水から、呼吸(大気中)から、マイクロプラスチックが体内に入り込んでいることが広く知られるようになっています。
さらに、マイクロプラスチックが1μm以下まで分解してできた微細粒子である「ナノプラスチック」がマイクロプラスチック以上に大きな不都合な真実となる可能性が、ここ数年クローズアップされるようになってきています。学術的にも、ナノプラスチックは、海洋だけでなく大気中にも拡散していること、その性質から細胞膜を通過し生体組織や臓器に侵入することが可能であることなどが明らかとなってきています。我々は、増え続ける途方もない数のナノプラスチックが海洋・大気中に含まれた環境で生活していることになりますが、ナノサイズまで小さくなったプラスチックの人体への危険性についての知見はほとんど得られていません。人が日々どれほどの量のナノプラスチックを摂り込んでいるのか、ナノプラスチックが接することになる消化器や呼吸器にどのような影響があるのか、さらに、それらから血管に入り込み脳組織にも侵入するのか、長い間にそれらは蓄積していかないのかなど、全くといって良いほどわかっていないというのが現状です。
■ナノプラスチックは脳神経に影響を及ぼさないか?
魚を使った実験では、ナノプラスチックが脳組織に侵入・蓄積し、異常行動が見られたという報告があります。人(の脳・神経)は大丈夫なのでしょうか?我々の研究室では、この疑問について少しでも知見が得られるように、そして、その知見を早期の予防対策につなげようと、日々研究を行なっています。人体を使った実験はできませんので、ヒトの神経細胞を使って模擬的にナノプラスチックの影響を調べています。これまで、我々は、高濃度のナノプラスチック(ポリスチレンナノ粒子)が曝露された神経細胞(ニューロン)は、ネットワークが断絶したり細胞死したりすることを明らかにしています。
さらに、より実際にヒトがさらされている環境に近い条件におけるナノプラスチックの影響調査を行なっています。これには、マイクロ流体チップ(数cmサイズの化学操作が可能なチップ)から派生したブレイン(脳)・オン・チップという技術を応用し、人体環境を模擬しようとしています。ブレイン・オン・チップの作製には、私が25年以上研究をしているダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)という炭素でできたユニークな薄膜を利用します。
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