NO.35 どの山のどんな木でもスイスイ登る?未来の林業を支えるロボットを目指せ
先進工学部 ロボティクス学科
フィールドロボティクス研究室
櫛橋 康博 准教授
林業は重労働で危険な職業の1つでもあります。現場では十分気をつけて作業しているのですが、それでも大きな事故が発生することがあります。工業製品を製造する工場のような安全のための設備も十分ではなく、自分で山に運び込めてもその準備はたいへんです。
特に危険が伴うのは、木に登って作業をする「枝打ち作業」と、幹を切断して木材を伐倒するときに他の木にひっかかってしまった際にそのひっかかりを処理して正しく木材を倒す「かかり木処理」といわれています。 少しでも作業者の危険を軽減することを目指しています。
このコンテンツでは、人間に代わって木登りができるロボットの研究について紹介します。
これまでにも木に登る機械は様々な方式が考えられています。その主流はタイヤやローラーを使うものです。スギやヒノキなど柱材としてよく使われる木は比較的素直にまっすぐ成長しやすいようですが、幹の断面が電柱のように真円になっているとは限らず、枝打ちの痕がコブ状になっていたりして以外とデコボコしています。そのためタイヤやローラーなどの転がり要素を用いた機構では、そのデコボコに対応できずに幹からずれてしまったり、乗り越えられずに止まってしまったりすることが問題となっています。重量のある機械が樹上で止まってしまうとその対応はとても危険な作業になります。
もう一つ考慮しておくことがあります。それは、その機械を誰が使うかです。林業を生業としていて生産性を重視しながら作業するような人なのか、それとも、数十年前におじいさんが裏山に植えた樹木を個人的に土日に世話するような人なのかなどです。この2つの例では、1本の樹木の作業にかけられる時間が異なります。また、現役の鍛え上げられた作業者であるのか、高齢者なのかによっても機械の作り方は異なってきます。
そこで、生産性よりも高齢者が安心して枝打ち作業ができるロボット開発に焦点を当てることにしました。高齢者でもヒョイと担いで山に登れるような小型で軽量な木登りロボットです。
今までにもいろいろな方式を試してきました。スピードは速くありませんが、幹の凹凸にも十分に対応できる可能性の有る機構として、現在は、ベルトを巻き付けながら木登りする機構を発案し、試作機を作りながら実用化に向けて研究を進めています。
動作原理自体はとても単純で、ベルトを機体の上部で幹に巻き付け、同時に下部で巻き取るだけです。ベルトの張力が維持できないと機体は滑り落ちてしまいますので、張力を絶妙に保ちながら巻き付けと巻き取りを行わなければなりません。張力を調節するためには、センサーをはじめとする仕掛けが必要となりますが、それらは機体を複雑化し重くしてしまいます。その問題を速度制御型のサーボモーターを組み込むことで解決しています。
下にある動画は試作機の動作確認実験の映像です。2022年3月に森林学会で発表したものです。将来的には枝を切断するメカを搭載する必要がありますので、可搬重量を確認するために水を入れたペットボトルをぶら下げています(かっこ悪いですが)。また、動画では電源やコンピュータは搭載しない状態で実験を行っていますが、それらを搭載しても2kgぐらいに収まっています。
現状ではまだまだ枝打ちメカの搭載はできていませんが、ベルトの巻き数を増やせば可搬重量を増やすことができるなど、性能向上の可能性がいくつかありますので、今後も実用化に向けて研究を進めていきたいと考えています。
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